工場や倉庫での太陽光発電導入が進む中、危険物を保管する倉庫にも太陽光パネルを設置できるのか疑問に感じる方は多いでしょう。
広い屋根を活用できれば、電気代削減やCO₂排出量削減といったメリットが期待できます。
一方で、危険物保管庫は消防法により厳しい安全基準が設けられており、通常の倉庫と同じ感覚で設備を導入することはできません。
太陽光発電設備は電気を扱うため、火災や爆発リスクとの関係を十分に考慮する必要があります。
本記事では、危険物保管庫への太陽光パネル設置の可否や関係する法令、求められる安全対策のポイントを解説します。
危険物保管庫に太陽光パネルの設置は可能
危険物保管庫であっても、条件を満たせば太陽光パネルの設置は可能です。
倉庫や工場は屋根面積が広く、太陽光発電に適した建物が多いため、屋根上に設備を設置できれば電力の自家消費によるコスト削減が期待できます。
しかし、危険物保管庫は火災や爆発のリスクが高い物質を取り扱う施設です。
そのため、設置にあたっては消防法や関連法令に基づく厳格な基準をクリアしなければなりません。
とくに、太陽光発電設備が新たな危険要因とならないよう、構造や設置方法、安全対策を慎重に検討することが前提となります。
参考:消防庁|危険物施設に太陽光発電設備を設置する場合の安全対策等に関するガイドライン
危険物施設で問題となる太陽光設備の火源性
危険物施設で、太陽光パネルの設置が慎重に判断される理由の1つが、太陽光発電設備が火源になり得る点です。
太陽光パネルは太陽光を受けている間、常に発電を続けるため、火災発生時でも電気を遮断しにくい特性があります。
消火活動中に感電の危険が生じたり、放水による二次災害につながったりする可能性も考えられるでしょう。
また、配線の劣化や接続不良が原因で電気火災が発生することも。
可燃性・引火性の高い危険物を保管する施設では、こうした火源性が事故リスクを高めます。
太陽光設備の設置には、十分な防火・感電防止対策が不可欠です。
太陽光パネルを設置するときに確認すべき法令
危険物保管庫に太陽光パネルを設置する場合、通常の倉庫や工場とは異なり、複数の法令を横断的に確認する必要があります。
ここでは、危険物保管庫への太陽光パネル設置に関係する代表的な法令について、それぞれの役割と注意点を解説します。
危険物の規制に関する政令
危険物の規制に関する政令は、消防法の委任を受けて、危険物の貯蔵や取扱いに関する具体的な基準を定めた法令です。
危険物施設において、火災や爆発の原因となるおそれのある設備の設置を原則として制限しています。
そのため、太陽光パネルや関連する電気設備が、危険物施設内の「電気設備」に該当する場合は、設置場所や構造について慎重な判断が求められます。
発火や火花の発生につながる可能性がある設備については、危険物の性質や保管状況を踏まえたうえで、安全性が確保できるかを確認することが必要です。
消防法
消防法は、危険物の取扱いや貯蔵に関する基本的なルールを定めた法律です。
危険物保管庫に太陽光パネルを設置する際の、中心的な根拠法令といえます。
消防法に基づき、危険物施設では火災の発生や延焼を防止するための構造・設備基準が定められています。
太陽光発電設備の導入にあたっても、これらの基準を満たすことが重要です。
消防庁が公表している太陽光発電設備に関するガイドラインも、消防法の考え方をもとに策定されています。
自然災害への備えや火災時の安全確保など、総合的な視点で安全対策を講じることが求められます。
電気事業法
電気事業法は、電気工作物の工事や維持、運用に関する安全確保を目的とした法律です。
太陽光発電設備は電気工作物に該当するため、危険物保管庫に設置する場合でも、この法律に基づく規制を受けます。
具体的には、技術基準への適合を維持することや、基礎情報の届出、使用前自己確認などが必要となる場合があります。
これらは、設備の施工不良や経年劣化による事故を防ぐための重要な制度です。
危険物を扱う施設では、電気設備のトラブルが重大事故につながる可能性があるため、電気事業法に沿った適切な管理が欠かせません。
建築基準法
建築基準法は、建物の安全性を確保するための基準を定めた法律です。
太陽光パネルを屋根に設置する際にも関係してきます。
具体的には、屋根に追加されるパネルや架台の重量が耐震性や構造安全性に影響を与えないかを確認する必要があります。
建物の高さ制限や用途区分によっては、設備設置が制限されるケースも。
既存の危険物保管庫では、建設当時の設計が太陽光設備の設置を想定していないことも多くあります。
建築基準法に基づく構造計算や、専門家による確認が重要です。
危険物保管庫に太陽光パネルを設置するリスク・対策
ここでは、消防庁が公表するガイドラインに基づき、危険物保管庫に太陽光パネルを設置するリスク・対策を解説します。
参考:消防庁|危険物施設に太陽光発電設備を設置する際に求められる安全レベル
自然災害
自然災害に関するリスクとして、地震・暴風・積雪などによる太陽光パネルや架台の倒壊、落下があげられます。
危険物保管庫の屋根上に太陽光パネルを設置する際は、パネルの重量を加味したうえで構造計算を行います。
さらに、建築基準法で定められた地震力や風圧、積雪荷重に対して十分な安全性の確保が必要です。
架台についても、JIS規格に基づいた設計荷重を想定し、必要な強度を満たさなければなりません。
これらの安全性は、施設所有者が自らの責任で確認し、適合していることを示すことが求められます。
爆発
危険物保管庫では、火災時に爆発的な燃焼が起きた場合、内部の圧力を逃がすための「放爆性能」が重要な役割を果たします。
屋根上への太陽光パネル設置により、放爆性能が著しく損なわれる可能性は低いとされているものの、設置方法には注意が必要です。
屋根や壁が適切に機能するよう、十分な強度を確保した施工が求められます。
また、架台の重量が屋根ふき材に直接かからないよう、はりに荷重を伝える構造とすることが望ましいとされています。
爆発リスクを前提とした構造への配慮が不可欠です。
火災(爆発以外)
爆発以外の火災リスクとしては、太陽光発電設備自体が発火源となるケースや、外部火災による延焼の影響が考えられます。
そのため、危険物保管庫に設置する太陽電池モジュールは、一定の耐火性能を備えた構造のものを使用する必要があります。
具体的に求められる内容は、下記のとおりです。
- 可燃物の使用量が抑えられていること
- JIS規格に基づく火災試験に適合していること
また、危険物施設では電気工作物に関する法令を遵守し、火災発生時に延焼を拡大させない配置や設計を行うことが重要です。
経年劣化
太陽光パネルは、長期間にわたり使用される設備です。
そのため、経年劣化への対策も欠かせません。
危険物保管庫に関連する電気設備として設置される際は、危険物の規制に関する政令に基づき、原則として年1回以上の定期点検が必要です。
配線の劣化や接続部の緩み、架台の腐食などを放置すると、電気火災や事故につながるおそれがあります。
消防庁のガイドラインでは、太陽光発電協会などが示す保守点検指針を参考に、事業者が自主的かつ継続的に点検・管理を行うことが望ましいとされています。
設置が可能なケース・難しいケース
危険物保管庫への太陽光パネル設置は、条件次第で可能な場合もあれば、法令や安全基準の観点から困難となる場合もあります。
ここでは、消防法や危険物の規制に関する政令や建築基準法などの考え方を踏まえ、設置が比較的進めやすいケースと、難しいケースの判断目安を解説します。
設置が可能になりやすいケース
比較的設置が進めやすいのは、太陽電池モジュールや架台の重量を加味したうえで、構造計算によって安全性を説明できる危険物保管庫です。
消防庁ガイドラインでは、地震・風圧・積雪といった自然災害を想定し、建築基準法や「JIS C 8955」に基づく設計用荷重に対して、十分な強度を確保することが求められています。
消防機関が建物の構造安全性を直接確認することは、容易ではありません。
そのため、施設の所有者等が自らの責任で基準への適合性を確認し、その内容を説明できる体制を整えておくことが重要です。
これらの条件を満たせる場合、法令遵守のもとで設置計画を具体化しやすくなります。
設置が難しいケース
設置が難しくなりやすいのは、ガイドラインで求められる安全対策に適合できない、または適合の根拠を示しにくいケースです。
たとえば、建物や屋根が老朽化していて、太陽光パネルの荷重を加えた構造安全性を確保できない場合は、計画そのものが成立しにくくなります。
爆発リスクへの配慮としては、放爆性能を確保するための構造条件を満たしているかがポイントです。
あわせて、架台の荷重を屋根ふき材ではなく、はりに直接伝える施工が求められます。
これらの条件は、施設の構造によっては導入時の制約となることも。
該当する電気設備については年1回以上の定期点検が必要となるため、維持管理体制を確保できない場合も導入は困難と判断される可能性があります。
危険物保管庫へ太陽光設備を導入する際の進め方
ここでは、危険物保管庫に太陽光設備を導入する際に押さえておきたい進め方を解説します。
- 事前に専門家・消防署へ相談する
- 設置位置・構造を検討する
- 法令・ガイドラインに沿った設計・施工を行う
- 導入後の維持管理を徹底する
それぞれ見ていきましょう。
事前に専門家・消防署へ相談する
危険物施設への太陽光設備導入では、計画の初期段階から専門家や所轄消防署への相談が欠かせません。
危険物施設は、消防法や危険物の規制に関する政令などの影響を強く受けます。
設置計画によっては、許可内容の変更や追加対応が必要になる場合も。
事前に相談しておけば、設置が難しい条件や注意点を早期に把握可能です。
あとから大きな設計変更や手戻りが生じるリスクを抑えられるでしょう。
設計会社や電気設備の専門業者と連携し、行政の見解を確認しながら進めることがポイントです。
設置位置・構造を検討する
太陽光パネルの設置位置や構造は、危険物保管庫に太陽光設備を導入できるかどうかを左右します。
屋根上に設置する場合、パネルや架台の重量によって建物に想定以上の負荷がかかるため、地震や強風時でも安全性を保てるかを事前に確認する必要があります。
確認を怠ると、設備のズレや落下といった事故につながるおそれがあるので、注意が必要です。
また、危険物保管庫では、火災や爆発時に被害を抑えるための構造が求められています。
太陽光パネルの配置が放爆性能や延焼防止機能を妨げないことも、要件の1つです。
パワーコンディショナーや配線は、危険物の保管・取扱いに支障が出ない位置に設置しましょう。
点検や修理がしやすい配置にすることで、安全性と維持管理の両立を図れます。
法令・ガイドラインに沿った設計・施工を行う
太陽光設備の設計・施工を行う際は、危険物施設に関係する法令を個別ではなく横断的に確認しましょう。
おもに確認すべき法令には、次のようなものがあります。
- 消防法
- 危険物の規制に関する政令
- 電気事業法
- 建築基準法
これらの法令を踏まえたうえで、消防庁が公表しているガイドラインに沿って、自然災害・爆発・火災・経年劣化といったリスクへの対策を設計段階から反映させることが求められます。
施工にあたっては、関係法令や基準を十分に理解した事業者を選定しましょう。
設計内容どおりに施工されているかを確認できる体制を整えることがポイントです。
導入後の維持管理を徹底する
太陽光設備は、設置後の維持管理まで含めて安全対策と捉えられます。
危険物施設に関連する電気設備として設置される場合は、法令に基づき、年1回以上の定期点検が求められるケースも。
配線や接続部の劣化、架台の腐食や緩みを放置すると、電気火災や事故につながるおそれがあるため、注意が必要です。
消防庁のガイドラインや太陽光発電システム保守点検ガイドラインなどを参考に、継続的かつ計画的な点検・管理を行いましょう。
まとめ:法令遵守と適切な対策で、太陽光パネルの導入を検討しよう
危険物施設への太陽光パネル設置は、条件を満たせば検討可能です。
ただし、消防法や危険物の規制に関する政令をはじめ、複数の法令や消防庁ガイドラインを踏まえた慎重な対応が欠かせません。
とくに、構造安全性や放爆性能、火災・経年劣化への対策は、設計段階から十分に検討する必要があります。
「株式会社ワールドシェアセリング」には、元消防職員や危険物の専門家が在籍しており、所轄消防との事前協議から設置・運用までをトータルでサポートいたします。
危険物保管庫や太陽光設備の導入に不安がある場合は、専門スタッフに気軽にご相談ください。



