燃料や可燃性の薬品など、火災や爆発のおそれのある危険物を取り扱う施設には、事故を未然に防ぐための入念な対策が欠かせません。
ひとたび火災や爆発が発生すれば、物的な損失のみならず、最悪の場合は人命に関わる事態ともなりえます。
この記事では、危険物倉庫に求められる防爆対策の詳細や、事故を回避するための原則も解説します。
従業員の安全を確保するためにも、ぜひ本記事をご一読ください。
危険物倉庫とは
危険物倉庫とは、燃料や、可燃性の薬品などの危険物を保管する倉庫のことです。
これらの危険物を特段の対策なく保管・使用した場合、火災や爆発など、ときに人命に関わる大きな事故となりかねません。
それゆえ、日本の消防法では、危険物の取り扱いや保管方法などが厳密に定められています。
当然、大量の危険物を保管する危険物倉庫には、火災や爆発に対する徹底した安全対策が求められます。
その基準は、通常の倉庫とは大きく異なるものです。
なお、危険物倉庫とよく似た言葉に「危険物保管庫」「危険物貯蔵庫」というものもあります。
これらのあいだに明確な違いはなく、企業や組織によって呼び方が異なるだけであるため、基本的には同じものと考えて差し支えありません。
本記事では便宜上、「危険物倉庫」という言葉を用いて解説していきます。
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消防法上の危険物倉庫の種類
一括りにされることも多い危険物倉庫ですが、厳密には、消防法により細かい分類がなされています。
続いて、危険物倉庫の消防法上の区分を3つ紹介します。
なお、ここで解説する各施設の区分は、先述の「危険物保管庫」「危険物貯蔵庫」とは異なるため、ご注意ください。
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危険物製造所
危険物製造所とは、行政の許可を得た施設のうち、指定数量以上の危険物を取り扱う施設のことを指します。
たとえば、消毒用のアルコールや、可燃性のガスを充填したスプレー缶の製造を行う工場などが該当します。
危険物取扱所
危険物取扱所は、危険物の製造は行わず、取り扱いのみを行う危険物倉庫の形態の一つです。
危険物製造所と同様に、稼働させる際は、行政の許可が必要です。
身近な例としては、ガソリンスタンドが挙げられます。
危険物貯蔵所
指定数量以上の危険物を貯蔵するため、行政の許可を得た施設が危険物貯蔵所です。
各種燃料の貯蔵施設や保管施設が該当し、石油を運ぶタンクローリーも危険物貯蔵所の一つです。
防爆とは
防爆とは、危険物の爆発や、それに起因する火災を防ぐことのできる製品の仕様および、建物全体の対策を指す専門用語です。
先述の危険物倉庫においては、爆発や火災のきっかけとなる火花が散ったり、高温の状態が発生したりしないよう、万全の対策が施された電気機器・設備が設置されます。
このように防爆対策が施された電気設備・機器を、防爆電気設備・機器とよびます。
決して「爆発にも耐えうる電気機器や設備」ではないという点に、ご注意ください。
対して、危険物倉庫自体を対象に用いられる場合、防爆は、火災や爆発リスクを最小限に留められるよう、構造や設備へ対策が施された建物のことを意味します。
危険物倉庫に求められる防爆仕様は消防法で厳密に定められているので、後ほど詳しく解説します。
危険物倉庫へ防爆対策を施す必要性
入念な防爆対策を施さなければ、危険物の製造、取り扱い、貯蔵のいずれにおいても大きな危険がともないます。
誤った手法で危険物を扱えば、爆発や火災を引き起こし、甚大な被害をもたらすかもしれません。
2020年、レバノンの首都ベイルートにおいて発生した大規模な爆発事故は、いまだに記憶に新しいことでしょう。
爆発の原因は、危険物の不適切な保管および取り扱いにあったとされています。
この事故からもわかる通り、安全を確保するうえで、危険物倉庫に対する適切な防爆対策は必要不可欠なのです。
危険物倉庫において爆発・火災を防止する方法
危険物倉庫における防爆対策の重要性を理解したところで、具体的な対策方法のポイントも知っておきましょう。
ここでは、危険物倉庫の爆発や火災の発生を未然に防ぐための、防爆“三原則”を紹介します。
ポイント①着火源と可燃物を別々に管理する
危険物による火災や爆発事故を防ぐうえでは、着火源と可燃物の物理的な距離をとるという、もっとも基本的なルールに則ることが最優先です。
着火源とは、火花や高熱を生み出す機器類、設備のことを指し、代表的なものとしては電気プラグが挙げられます。
そもそも、爆発や火災は、「着火源」と「可燃物(危険物)」という2つの要素の足し算で起こります。
たとえば、火花を発生させる電気プラグがガソリンの近くにある場合、引火する光景を容易に想像できますよね。
つまり、電気プラグのような着火源と、ガソリンをはじめとする可燃物(危険物)は共存させず、別々に保管するのが原則なのです。
ポイント②着火源の着火作用をなくす
着火源である電気機器や電気設備に、対策を施すことも基本です。
先述したように、着火源と可燃物は別々に保管するのが原則ですが、実現が難しいケースも往々にしてあります。
たとえば、「危険場所」とよばれるような、燃料や可燃性の薬品が気化して、空間に充満する可能性のある施設などです。
このような状況下では、着火源と可燃物の物理的距離をとることは現実的とはいえません。
そのため、着火源である電気機器や設備に対して、火花の発生や温度上昇を防ぐなどの防爆処理を施す必要があるのです。
基本的に、危険物倉庫内においては、入念な防爆対策が施された防爆電気機器・設備以外の使用は避けたいところです。
ポイント③可燃物の可燃特性を消滅させる
可燃物が引火・発火しないよう、また、万が一着火した場合でも爆発・火災の規模を最小限に抑えるための事前対策を講じることも重要です。
可燃物は、専用の容器への保管により、引火・発火リスクを回避することが可能です。
また、可燃物の特性によっては、各物質の距離をとって保管することで火災・爆発発生時に被害が連鎖的に広がるのを避けられます。
危険場所において、万が一空気中の可燃性ガスの濃度が危険レベルまで上昇した際は、速やかに換気を行うことも有効です。
ガスの濃度を一定以下に抑えることさえできれば、仮に着火源と接触したとしても、引火や爆発を回避できるというわけです。
危険物自体の引火・発火リスクを下げておくことの重要性を、おわかりいただけたでしょうか。
消防法で危険物倉庫に求められる防爆措置
続いては、消防法によって定められている危険物倉庫の建設・設置条件を、構造や設備、設置場所、規模などの基準項目ごとに解説します。
なお、詳細は各市区町村により異なる場合があります。
建設・設置の際には必ず所轄の自治体のルールを確認のうえ、準拠するよう注意してください。
基準項目➀構造
危険物倉庫は、火災や爆発を防止しつつ、万が一発生した際も速やかに鎮火できるよう、建物の構造に関してルールが定められています。
構造に関する主だった定めは、下記をご確認ください。
【危険物倉庫に求められる構造の定め】
- 壁・柱・床は耐火構造とする
- 外壁には出入り口以外の開口部を設けない
- 屋根は不燃材料で造る
- 窓や出入り口には防火設備を設ける
- 窓および出入り口に使用するガラスは網入りとする
- 禁水性物品を取り扱う場合は、床面を防水構造とする
危険物倉庫は、耐火構造でなくてはなりません。
壁や柱に難燃性の建材が使用されていれば、火災・爆発が発生した際にも、その延焼を防ぎ、被害を最小限に留められるためです。
また、開口部の位置や数を制限することで建物の強度を維持しつつ、火災・爆発発生時に外部からの酸素の供給を遮断できるため、早期の鎮火に役立ちます。
新たに危険物倉庫を建設する場合はもちろん、既存の建物であっても、上述の基準に準拠しているか、確認しておくことをおすすめします。
基準項目②設備
危険物倉庫内の設備にも、定めがあります。
必要となる主な設備は、下記をご覧ください。
【危険物倉庫に必要な設備】
- 消火設備
- 排煙設備
- 蒸気排出設備
- 採光設備
- 避雷設備
危険物倉庫に求められる主な設備も、構造に関する決まりと同様、火災や爆発を想定して定められていることがわかります。
たとえば、火災のいち早い鎮火を目的として、消火設備の設置が義務づけられています。
くわえて、出入り口付近など特定の箇所への、自動開閉式の消火設備の取り付けも必須です。
火災発生時の人体への影響を抑えることを目的として、また、避難時や消火活動時の視界確保のために、排煙設備や採光設備も設置しなければなりません。
また、落雷は着火源ともなりうるため、避雷装置の設置義務もあります。
これらの設備を漏れなく取り付けることはもちろん、有事の際に問題なく作動するかをチェックするための、定期的な点検・メンテナンスも滞りなく実施しましょう。
関連記事:危険物施設の消火設備の設置基準を解説!
基準項目③設置場所
危険物倉庫は、その建設場所にも厳格な決まりがあります。
【危険物倉庫の建設に関する主たる条件】
- 住居から10m以上離れていること
- 学校、病院など総務省が定める施設から30m以上離れていること
- 重要文化財、史跡などから50m以上離れていること
- 特別高圧架空電線から水平距離で3m以上離れていること(使用電圧が35,000Vを超える場合は水平距離5m以上)
- 安定した地盤の上に建設されること
- 河川や湖の水質汚染の心配がないこと
有事の際の周囲への安全を確保するために、住居や病院、美術館、高圧電線などの施設・設備からは一定の距離を保って設置するよう、義務づけられています。
また、災害時の影響を最小限に留めるため、危険物倉庫は安定した地盤の上に設置されなければなりません。
あわせて、河川や湖沼といった、周囲の自然環境へ悪影響を与えないよう配慮することも必要です。
なお、危険物倉庫の設置に際しては、施設の周囲に空地を保有することが義務づけられており、これを「保有空地」とよびます。
保有空地は、火災や爆発が発生した際、周辺への被害を抑える緩衝材としての役割を果たします。
このように、危険物倉庫の設置場所に関しても細かい決まりがあるため、用地取得の際は慎重に計画を進めてください。
関連記事:危険物貯蔵所の保有空地とは?設置する目的と基準を解説
基準項目④規模
消防法により、危険物倉庫の規模は「軒高6m未満の平屋で、床面積が1,000㎡以下」と定められています。
こちらも、火災や爆発が発生した際の被害拡大リスクを、最小限にコントロールすることを目的としています。
製造・保管する危険物の想定量を見積もりつつ、基準をオーバーしない範囲で設計計画を立てることが必要です。
危険物倉庫への防爆対策を徹底して安全な業務遂行を!
今回は、危険物倉庫における防爆対策を徹底解説しました。
危険物倉庫は、別名「危険物保管庫」「危険物貯蔵庫」ともよばれ、火災や爆発を防ぐための防爆対策が消防法により義務づけられています。
具体的な決まりとしては、耐火構造であることや、消火設備の取り付け、周辺の住宅・施設から一定の距離を保つことなどが挙げられます。
また、事故防止の観点からは、これらの防爆対策にくわえ、火災・爆発を防ぐための防爆“三原則”を守ることが重要です。
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