建築物の火災予防と安全確保は、消防法の厳格な実施によって成り立っています。
消防法が定める防火対象物の管理者は、防火管理者や消防用設備の設置など、さまざまな規定を遵守しなければなりません。
そこで本記事では、重要度が高い消防法の条項に焦点をあて、建築物の管理者が知っておくべき基本内容や違反した際の罰則を解説します。
法的な要件を押さえて火災に備えたい方は、ぜひ参考にしてください。
消防法とは?
消防法とは、火災の予防や災害発生時の被害軽減を目的に定められた法律です。
人々の生命と財産を保護するためにとるべき、適切な対応が明記されています。
第一条 この法律は、火災を予防し、警戒し及び鎮圧し、国民の生命、身体及び財産を火災から保護するとともに、火災又は地震等の災害による被害を軽減するほか、災害等による傷病者の搬送を適切に行い、もつて安寧秩序を保持し、社会公共の福祉の増進に資することを目的とする。
消防法は、すべての建築物に適用され、管理者に消防用設備の設置と定期点検を義務づけています。
建築物の管理者がこれを遵守することは、単なる法的義務を超え、安全な社会を維持するために果たすべき責任となっています。
また、2001年の新宿区歌舞伎町のビル火災や、2006年の長崎県大村市のグループホーム火災のような悲劇を受けて、消防法はさらに強化されました。
消防機関の立入検査や措置命令の権限が拡大し、2015年にはスプリンクラー設備の設置基準が厳格化されています。
関連記事:危険物保管庫を導入するなら知っておくべき立入検査や届け出の知識
消防法の適用対象
防火対象物は、消防法で以下のように定義されています。
防火対象物とは?
防火対象物とは、山林又は舟車、船きょ若しくはふ頭に繋留された船舶、建築物その他の工作物若しくはこれらに属する物をいう。
すべての建築物は防火対象物に該当し、広義には一般住宅も含まれます。
ただし、一般住宅は、消防法による制約を受けることがほとんどありません。
また、防火対象物のなかでも、百貨店や映画館などの不特定多数の人が出入りする建築物を「特定防火対象物」といいます。
これらの施設は、火災発生時に避難が困難であると予想されるため、延べ面積によって、必要となる消防用設備の条件が、厳しく規定されています。
消防対象物とは?
消防対象物の定義は、以下の通りです。
消防対象物とは、山林又は舟車、船きょ若しくはふ頭に繋留された船舶、建築物その他の工作物又は物件をいう。
消防対象物は、消防隊が消火活動を行う建築物や物件が該当します。
管理者は、これらの対象物に対して、定められた規制を遵守し、事故や災害から人命と財産を守るための責任を負うのです。
なお、先述した防火対象物のすべては、消防対象物にも含まれます。
消防法における危険物
消防法では、火災発生の要因となる可能性が高い物を「危険物」として定め、指定する場所以外での取り扱いを禁止しています。
危険物の安全な管理は、火災予防と公共の安全を確保するために重要です。
【消防法における危険物】
種別 | 性質 | 品名 |
第一類 | 酸化性固体 | ・塩素酸塩類 ・過塩素酸塩類 ・無機過酸化物 ・亜塩素酸塩類 ・臭素酸塩類 ・硝酸塩類 ・よう素酸塩類 ・過マンガン酸塩類 ・重クロム酸塩類 ・その他のもので法令で定めるもの ・前各号に掲げるもののいずれかを含有するもの |
第二類 | 可燃性固体 | ・硫化りん ・赤りん ・硫黄 ・鉄粉 ・金属粉 ・マグネシウム ・引火性固体 ・その他のもので政令で定めるもの ・前各号に掲げるもののいずれかを含有するもの |
第三類 | 自然発火性物質及び禁水性物質 | ・カリウム ・ナトリウム ・アルキルアルミニウム ・アルキルリチウム ・黄りん ・アルカリ金属(カリウム及びナトリウムを除く。)及びアル・カリ土類金属 ・有機金属化合物(アルキルアルミニウム及びアルキルリチウムを除く。) ・金属の水素化物 ・金属のりん化物 ・カルシウム又はアルミニウムの炭化物 ・その他のもので政令で定めるもの ・前各号に掲げるもののいずれかを含有するもの |
第四類 | 引火性液体 | ・特殊引火物 ・第一石油類 ・特殊引火物 ・第一石油類 ・アルコール類 ・第二石油類 ・第三石油類 ・第四石油類 ・動植物油類 |
第五類 | 自己反応性物質 | ・有機過酸化物 ・硝酸エステル類 ・ニトロ化合物 ・ニトロソ化合物 ・アゾ化合物 ・ジアゾ化合物 ・ヒドラジンの誘導体 ・ヒドロキシルアミン ・ヒドロキシルアミン塩類 ・その他のもので政令で定めるもの ・前各号に掲げるもののいずれかを含有するもの |
第六類 | 酸化性液体 | ・過塩素酸 ・過酸化水素 ・硝酸 ・その他のもので政令で定めるもの ・前各号に掲げるもののいずれかを含有するもの |
参照元:消防法 | e-Gov法令検索
危険物を保管するには、「危険物倉庫」の基準を満たす必要があり、その設置にあたっては市区町村への申請が必要です。
危険物の取り扱いに関する細かな規定に関しては、消防法とあわせて「危険物の規制に関する政令」もご参照ください。
関連記事:危険物の種類一覧!第1類から第6類までの内容を紹介
消防法における防火管理者
学校や病院など、公共性の高い施設や多くの人が利用する場所には、専門的な研修を受けた「防火管理者」を設置しなければなりません。
該当する施設の管理者は、防火管理者を定め、そのことを所轄の消防署に届け出る義務があります。
【防火管理者の設置が必要な施設】
- 学校
- 病院
- 工場
- 事業場
- 興行場
- 百貨店(大規模な小売店舗を含む)
- 複合用途防火対象物
- その他多数の者が出入し、勤務し、又は居住する防火対象物で政令で定めるもの
参照元:消防法 | e-Gov法令検索
また、高層建築物を含む大規模施設では、さらに包括的な役割を担う「統括防火管理者」も求められます。
これらの規定は、施設の安全性を高め、火災のリスクを低減させるために欠かせないものです。
消防法における消防用設備等
消防法における消防用設備とは、スプリンクラー設備や火災報知設備など、防火対象物への設置が義務づけられている、消火活動に必要な設備を指します。
【消防用設備等の種類】
消化設備 | ・消火器および次に掲げる簡易消火用具(水バケツ、水槽、乾燥砂など) ・屋内消火栓設備 ・スプリンクラー設備 ・水噴霧消火設備 ・泡消火設備 ・不活性ガス消火設備 ・ハロゲン化物消火設備 ・粉末消火設備 ・屋外消火栓設備 ・動力消防ポンプ設備 |
警報設備 | ・自動火災報知設備 ・ガス漏れ火災警報設備 ・漏電火災警報器 ・消防機関へ通報する火災報知設備 ・警鐘、携帯用拡声器、手動式サイレンその他の非常警報器具および次に掲げる非常警報設備(非常ベル、自動式サイレン、放送設備) |
避難設備 | ・すべり台、避難はしご、救助袋、緩降機、避難橋その他の避難器具 ・誘導灯および誘導標識 |
関連記事:危険物施設の消火設備の設置基準を解説!
消防法における定期点検
消防用設備の定期的な検査は、火災を防ぎ安全を保つうえで欠かせません。
消防法では、安全性の確保を徹底すべき防火対象物に対して、資格をもつ専門家からの点検を定期的に受けることが義務づけられています。
義務となっているのは、半年ごとの「機器点検」と、年に一度の「総合点検」の2種類です。
点検の種類 | 点検の内容および点検の方法 |
機器点検 | 次の事項について、確認する ・消防用設備等に附置される非常電源(自家発電設備に限る。)又は動力消防ポンプの正常な作動 ・消防用設備等の機器の適正な配置、損傷等の有無その他主として外観から判別できる事項 ・消防用設備等の機能について、外観から又は簡易な操作により判別できる事項 |
総合点検 | 消防用設備等の全部または一部を作動させて、総合的な機能を確認する |
機器点検では、非常電源や消防ポンプの作動状態、設備の配置や損傷の有無などをチェックします。
総合点検では、実際に消防用設備を作動させ、総合的な機能を確認します。
整備・点検すべき消防用設備等
特定防火対象物とそれ以外の非特定防火対象物では、それぞれ定期点検の報告に関する規定が異なります。
百貨店や映画館などの特定防火対象物は、多くの人が利用するため、より厳格な防火管理が求められます。
定期点検の結果は、特定防火対象物の場合は1年に1回、非特定防火対象物の場合は3年に1回、所轄の消防署に報告しなければなりません。
消防法に関連する法令
ここからは、消防法に関連する法令を紹介します。
消防法施行令
消防法を実施するための必要事項を定めた政令が、消防法施行令です。
消防法に基づいた、消防用設備や救急業務の基準が記されています。
建築基準法
建築基準法は、建築物の安全を保障するために、その構造や用途、利用する土地に関する規準を定めている法令です。
建築物はこの法令に基づき、防火設備の配備や、防火区域および準防火区域内での建設に関する、厳しい制限に従う必要があります。
消防組織法
消防組織法は、消防の業務や、それを行う組織の構成を規定する法律です。
自治体が消防責任を負い、その費用を負担することが記されています。
自治体の条例
ここまでで紹介した法令のほかにも、自治体ごとに火災予防に関する条例が定められている場合があります。
個々の地域の特性を考慮して制定されるため、内容は自治体によって異なります。
消防法に違反した場合の罰則
消消防法に違反し、消防用設備の不備や建築物の安全性の欠如が見られる場合は、消防庁から行政指導が行われます。
管理者がその指導に従わなかったり、火災を起こす危険性が高い状態が続いたりと、消防法に背く行為をとったときには、行政処分が下される可能性があります。
さらには、この行政処分に違反すると、刑事罰の対象となるため、注意しましょう。
【消防法に違反した場合の罰則】
違反内容 | 罰則 | |
建築物等に対する措置命令(使用禁止、停止、制限など)違反 | 3年以下の懲役または300万円以下の罰金、両罰として法人に対し1億円以下の罰金 | |
消防用設備等(または特殊消防用設備等)の設置・維持命令違反 | (設置命令違反)1年以下の懲役または100万円以下の罰金、両罰として法人に対し3,000万円以下の罰金 (維持命令違反)30万円以下の罰金または拘留、両罰として法人に対し30万円以下の罰金 | |
消防用設備の点検・報告義務違反 | 30万円以下の罰金または拘留、両罰として法人に対し30万円以下の罰金 |
建築物等に対する措置命令に従わなかった場合は、3年以下の懲役または300万円以下の罰金、法人の場合は1億円以下の罰金が科されます。
これらの罰則は、社会全体の秩序を守り、火災のリスクを減らすために設けられています。
ペナルティを受けないためにも、防火対象物の管理者は、消防用設備の点検を怠らず、消防法に従った行動を心がけましょう。
消防法に基づく危険物管理と防火対策
本記事では、消防法で定められている防火管理者や消防用設備について解説しました。
消防法は、火災の予防や発生時の被害軽減を目的とする法律です。
安全性を確保するため、防火対処物の管理者には定期点検が義務づけられています。
この定期点検を怠ったり、消防用設備に不備が見られたりする場合は、行政処分の対象となるので注意しましょう。
消防法に基づく適切な管理と安全対策を行うには、専門知識が必要です。
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